SSブログ

ピエロの呪い [手記]

1970年代、ゆういちの少年期シリーズ、第4弾。
ガチャガチャから出てきたピエロに呪われたお話です。

「アッ! イタタタタタタ―― 」
僕の足のすねに衝撃が走り、思わず叫んでしまった。
大の仲良しのユキオちゃんはアントニオ猪木の大ファンだ。プロレス技をかける遊びが好きで、いつも下顎を突き出しながら足四の字固めや、コブラツイストの技をかけてくる。おねえちゃんを実験台にしていたらしく、仕返しが怖いのでやめたと言っていたので、僕が実験台にされるようになったようだ。ユキオちゃんは何の真似をしているのかは、わからないけど、普段でも気合が入ったり、うまく事が進んだりすると、上半身を少しだけ斜めに傾けてバネのように戻る仕草が特徴的だ。
ユキオちゃんとアパートの部屋で遊ぶのも飽きたので、国鉄K駅近くで最近開店して多くのお客さんで賑わうニチイというデパートまで遊びに行った。店の前、ジューサーミキサーの何倍かの大きさの四角い透明プラスチックの中にカプセルがたくさん入ったガチャガチャが子ども達を誘惑している。
それは今までも何度か挑戦しているガチャガチャ、全体的に赤いデザインなので子どもの興味を引き、否応なしに僕らを呼び止める。
中はウズラの卵より少しだけ大きいカプセルの中に、ゴム製の怪獣、クワガタ、人形、その他いろいろ、全部宝物に見えてしまいカプセル容器にまで魅力を感じる。

ガチャガチャは一回10円。
たこ焼きだったら10円で5個、コロッケだったら10円で一個買える、でも僕としては10円でカプセル一個はコロッケといっしょで10円なりの価値があると思っている。
今日も10円のお小遣いをもらって、ポケットにしまっている。ポケットに手を突っ込み、ホコリの固まりや糸くずといっしょに10円玉を確認した。とにかく何でも不安になったらポケットに手を突っ込んで10円玉を触るのが癖になっている。小腹がすいたら、家の近くのおばあちゃんが作るたこ焼きを買おうかとも思っていた。しかし、ガチャガチャの前に来たからには、今日のお小遣い全額を投資して一回、回さないわけにはいかない。

ポケットからホコリの固まりや糸くずといっしょに10円玉を取り出して、ガチャガチャのハンドルの12時の位置に10円玉をはめ込み、大きなネジを巻くようにハンドルを回した。その10円玉は機械の中で真下になったら落ちて回収される仕組みだ。
「ガチャガチャ…… コトン」
出てきたカプセルを手に取りニヤニヤしていたら、ユキオちゃんが指さして「10円、10円、」と言うのだ。ユキオちゃんが指さした先のガチャガチャのハンドルの12時の位置に、なぜかまた10円玉がある。一瞬だけ不思議に思ったけど、すぐにわかった。
さっき入れた10円玉が中で落ちずに、また戻ってきたのだ。
そのままハンドルを回してみた
「ガチャガチャ…… コトン」
10円で2個目が出てきたので、嬉しくなり中身も確認しないままユキオちゃんにあげた。
それに、また10円玉が戻ってきている。ユキオちゃんは、うれしそうにバネのように戻る仕草をした。さらにユキオちゃんと僕は、周りの大人達に気づかれないように顔をみあわせ、お互い喜びを表現した。
それから、10回以上回したら、ポケットがいっぱいになり、ユキオちゃんも僕も手に持てなくなってしまったので、ユキオちゃんが気を利かせて入れ物を探しに行ってくれた。
ユキオちゃんは、すぐに猫が一匹入るぐらいの段ボール箱を持ってきたので、こりゃまた都合よくちょうどいい箱があったものだと思いながら、笑っているユキオちゃんを見たら、ユキオちゃんの顔をピコピコハンマーで叩いて、いっしょに笑いたい気持ちになった。
段ボール箱から仔猫でも出てきたら、それもまた楽しいなと思ったけど中は空っぽだった。
段ボール箱をガチャガチャの機械より奥に置いて、周りの様子を見ながらハンドルを回し続けた。出てきたカプセルの中身も確認せずに……
ガチャガチャの中のカプセルが残り数個となったら、自分たちは悪いことをしているのではないかと頭をよぎった。
ひとつ残らず出してしまったら、“とっても”悪いことなので、2、3個残して切り上げることにした。ガチャガチャのハンドルにはまだ10円玉があったので、そっと10円玉を抜いてポケットにしまった。
僕たちは段ボール箱を持って、O通り商店街を抜けて家に向かった。
ユキオちゃんにもカプセルをたくさんあげ、箱の中のたくさんのカプセルは10円を投資した僕がもらうことになった。10円玉が戻ってきたので投資額はゼロ円なんだけど、ユキオちゃんは10円使ったと思っているようだ。
ユキオちゃんと別れ、ひとりになった家でカプセルをひとつひとつ開けてオモチャを取り出した。でも、いつものワクワク感がなくて、なんだかつまらない。
箱の中のカプセルとオモチャを見ていたら、また自分たちはとっても悪いことをしたのではないかと頭をよぎった。
箱の中から何体かの小さなピエロの人形が僕を見つめていたので、段ボール箱の蓋を閉めて、家の唯一の押し入れの奥にしまった。

次の日、学校から帰り押し入れの段ボール箱を開けてみた。昨日と変わらないたくさんのカプセルとオモチャがごちゃ混ぜにはいっているのを見て、罪悪感が頭をよぎった。昨日より罪悪感を強く感じ、一瞬手の血が引いたような感じがしたかと思ったら、箱の中のピエロの人形が僕を見つめた。
深呼吸してから段ボール箱の蓋を閉めて押し入れにしまった。

次の日から、押し入れを開けなかった。
また、きのうより罪悪感を強く感じ、一瞬手の血が引いたような感じがしたかと思ったら、箱の中のピエロの人形を思い出した。
その夜は、ピエロの人形の夢を見てぐっしょり汗をかいた。

それから数日後、学校から帰り恐る恐る押し入れの段ボール箱を開けてみると、暗い段ボール箱の中でピエロの人形が泣いているようだった。
ピエロの人形が怖くなり、この段ボール箱を消してしまいたくなった。

次の日、大好きなテレビアニメ、マッハGoGoGoを観ていたら、押し入れからゴソゴソっと音がしたので思わず振り返った。弟が押し入れのオモチャ箱をあさっているところだったので胸をなでおろしたが、落ち着かなくなりテレビどころではなくなった。
押し入れのピエロの人形が怖くなり、そして重くのしかかっていた罪悪感に耐えられなくなり、今まで隠していたことを、お母ちゃんに打ち明けることに決めた。

僕はお母ちゃんに打ち明ける前に、悲しくはないけど涙が出てきた。
そして正直に、今までのことを包み隠さずお母ちゃんに話をした。
お母ちゃんは、あきれたようにフンとため息をついてから、大きな声ではぎれよく「すぐに返しなさい」と一言だった。

ユキオちゃんには、お母ちゃんに打ち明けたことは言わず、ひとりでニチイに謝りに行った。お母ちゃんから言われたとおりに、店の大人に声をかけ、大人の前掛けのポケットを見ながら、しっかりと謝った。ピエロの人形が入った段ボール箱を返す時、お叱りの最後に、「ええわ、それ」と言われたらどうしようと思っていたが、ピエロが入った段ボール箱を無事返すことができた。

大仕事を終えたような気分になり、O商店街をスキップで駆け抜けて家に帰った。
その夜、一個だけとっておいた赤色のカプセルの半分を鼻にかぶせて、
弟の前でピエロの真似をした。
そして、僕はピエロの呪いから解放された。

gachagacha.png

あとがき
ユキオちゃんは、まだ若いのに妻子を残し天国へ行ったと聞いた。
彼が、その時代を生きていたという証を残したかったので本名で書かせてもらった。

人気ブログランキング
nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。