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消えた五百円札 [手記]

はじめに
もう私をひっぱたいてもこれ以上出てこないでしょう、少年期の思い出。
読む時間がなかったら戻るボタンを押して退室したほうがいいかも(笑)

1970年代、ゆういちの少年期シリーズ、第12弾

8時だよ全員集合も中休みになり、ゲストのいしだあゆみが大ヒット中の”ブルー・ライト・ヨコハマ”を歌っている。
深く青いヨコハマの夜を想像していると、お母ちゃんが突然、「ほら」と言って劇場の券を見せてくれたのでヨコハマは頭の隅に置いておいた。
今度の休みの日に弟と僕を、大阪まで連れて行ってくれると言った。
ここも大阪の端っこで大阪なのだけど、環状線が走る大阪の中心をあえて大阪と呼んでいる。じゃ、ここは大阪ではないのかと考えると、どうでもええわとなる。
劇場ということだけど、オーケストラでもなく、オペラでもなく、ピアノリサイタルでもなく、子ども受けする漫才だということはすぐにわかった。
お母ちゃんは、時々お父ちゃんの仕事の事務手続きで、僕にとっては退屈な大阪府庁まで連れて行くことはあるけど、劇場に連れて行ってくれるとは思いもしなかった。
お母ちゃんには内緒だけど、”フチョー”<府庁>という言葉は大嫌いだったのだ。
気がついたときには、”いしだあゆみ”はもうテレビから居なくなり、頭の隅に置いておいたヨコハマも無くなっていた。

当日、お母ちゃんと弟といっしょに、最寄りの国鉄の柏原駅から、
ディーゼル列車に乗った。
学校の成績があまり良くない僕でも、志紀、八尾、久宝寺、加美、平野、天王寺と駅は全部憶えてしまっている。天王寺に着くと地下鉄の御堂筋線に乗り換えるので、弟と手をつないだお母ちゃんに、はぐれないようについていった。
改札を出たところで、青っぽい紙、間違いなく五百円札が落ちているのに気がついた。
お母ちゃんに「お金、お金」と言ってすぐに教えてあげたら、「早く拾いなさい」と口の動きだけで、怒鳴るように言葉をかけてきたので、僕は何としてでもお金を拾わないといけないと思った。
低い姿勢に変えて人差し指と中指で挟もうとイメージして挑戦したら、失敗してしまい、後戻りしてその場にしゃがんで蟹みたいに五百円札と格闘した。
蟹のハサミで五百円札を挟んだら、あれ、お母ちゃんどんな洋服着ていたかな?
急にわからなくなり、焦りもあって五百円札に興味が無くなりそうになった。
確実に五百円札を握りしめて、人込みを追いかけようとしたが、ふたりは引田天功かと思わせるようなトリックを使ったのか、僕の後ろを笑いながら歩いていた。
こっちは、交番行に飛び込もうかと準備が整っていたのに笑っている場合ではないやろ。
でも、あーよかった。
お母ちゃんから、お前はよくお金を拾うと言われる。大人と比べると目ん玉が地面に近いからだろうと単純にそう思う。一日中大阪の街を歩けば五千円ぐらいは拾うのではないかと思い金持ちの自分を想像した。
五百円札を手にしたからには、サンダーバード二号のプラモデルが買えると確信し、すぐにでも家の近所の交番じゃなくて、模型店に飛び込みたくなった。幸い、お母ちゃんは先を気にしているらしく、僕が拾ったお金は頭から消え去ったようだったのでポケットに五百円札をねじ込んだ。

乗り換えのためにずいぶん歩いて、御堂筋線のホームに降りて行った時に、ホームでおばちゃん二、三人が「キャ―――、キャ―――」って叫んでいるので、頭がおかしくなったのかと思って叫んでいる方向を見ると、明るい色のスーツに大きなサングラスの男の人が、おばちゃん側を手のひらで顔を隠して斜めに逃げるように階段を上がっていった。不思議と、その男の人は万博のアメリカ館で見た月の石のように輝いていた。
僕は光るスリじゃないかと思ったけど、お母ちゃんが興奮して“仁鶴”と教えてくれた。
大スターは、こんなところに住んでいるのだと、月の石の輝きといっしょに僕の記憶に刻み込んでおいた。
天王寺まで来ると、刺激があるなぁーと思ったら、何も気にせずアポロチョコを食べている弟を見たら、なんだか急に落ち着いてきた。

御堂筋線の電車に乗ったら、いつものようにスゥ―――と、油を塗ったレールの上を走るように、気持ちが悪いぐらいの静けさで電車が出発する。
僕はディーゼル列車と大阪の地下鉄のギャップが大好きだった。

車内放送がトッポジージョのような小さな声で「動物園前」と言った。
電車は壁面に動物の絵が描かれた“動物園前”に停まった。
ど・う・ぶ・つ・え・ん・ま・え、僕の、いや、大阪の子ども達が一番好きな駅のはずだ。
弟も、キリンやライオン、象さんの壁画を見ながら、劇場よりここの方が絶対行きたいと思っているに違いないが、残念ながら電車からは降りずに扉が閉まるのを待った。
また、油を塗ったレールの上を走るようにスゥ―――と走り出した。
トッポジージョが「なんば」と言ったので、お母ちゃんが着いたと言って、僕に降りるように促した。僕は、トッポジージョの声で「到着」と言ったら、お母ちゃんは、吹き出しながら「はよ降り」と言って弟と手をつないで電車を降りた。

その、なんば駅で降りてから地上に上がってみると大きなビルがたくさん立ち並んでいたので、最近テレビで話題の霞が関ビルより高くなろうと背伸びをしているように見えた。
お母ちゃんは少しだけ遠回りして戎橋で、ほらグリコと教えてくれたのでグリコの大きな看板を見ていると、“グリコ”、“チヨコレイト”、“パイナツプル”と階段で遊んでいる光景と、グリコ劇場の鉄人28号が頭に浮かんだ。グリコの誘惑で完全にはぐれてしまうと思って弟と手をつないだお母ちゃんを見失いないように付いて行った。珍しい物ばかりなのでパトカーの回転灯のように頭をくるくる回転させながら歩いていると、すぐに劇場に到着した。

お母ちゃんはここが、松竹芸能の角座だと言った。
赤い提灯がぶら下がり、立て看板がたくさん、今日の演目の中に、レッツゴー三匹や正司敏江・玲児が読み取れた。お母ちゃんが「トッシェレージや」とつぶやいたので、僕の見たいのと同じだとわかった。
角座は中からチンドン屋が飛び出してきそうで、まるでお祭りのようだ。

お母ちゃんが「お菓子買おうか・・・五百円・・・」と言い出したので、僕のポケットの中の五百円札かと思った瞬間に、サンダーバード二号が墜落しそうになったけど、お母ちゃんは自分の財布を取り出してお菓子を買ってくれたので二号の墜落は免れた。

座席に座ってお菓子を食べながら開演を待っていると、団体の人たちが一斉に「バリバリバリ―――」という乾いた音をたてた。腹をすかしたおっちゃんやおばちゃん達が、酸っぱいにおいの幕の内弁当を開け始めたのだ。
弟がびっくりして、さっきの僕みたいに頭をパトカーの回転灯のようにくるくる回転させた。
・・・
暗くなった場内。
学校の講堂で映画が始まる期待感といっしょだ。
幕がスルスルっと上がり舞台が眩しくなったので、期待を込めて目を細めた。

奇術あり、曲芸あり。
「♪ウチら陽気なかしまし娘 誰が言ったか知らないが 女三人寄ったら
姦しいとは愉快だね」・・・
音楽ショウは、かしまし娘だ。
娘と言っても近所のどこにでもいるおばちゃんみたいだ。
レッツゴー三匹、知ってる!でも何が面白いのかわからない。
大人気の、正司敏江・玲児が出てきた。
テレビといっしょ!今日の中で一番元気だ、玲児がちょっと押しただけで、敏江が舞台袖まで飛んで行ってしまう。
仲良くしゃべり出したと思えば、玲児が敏江のおでこを“ピシャッ”と叩く。
叩かなくてもいいところでも“ピシャッ”と叩く。
あーーー、面白かったと言いたいところだったけれど、小学生の僕には理解できない言葉の掛け合いが多すぎた。

manzai_kaeru.png

そのかわりにたくさんの栄養を補給した感じがした。

お笑いの最前線を生で体験した僕たちは、誰かに報告したいと思いながら足取り軽く帰途についた。
・・・
サンダーバードの勇ましいテーマ曲とともに、サンダーバート二号が巨大なコンテナポッドを荒海に落下させ、巨大な波しぶきを上げた。
僕は小さなボートで荒海と闘いながらコンテナポッドに向かい、ずぶ濡れになりながらも奇跡的とでも言うか無事No.4と表示があるコンテナポッドに乗り込んだ。
コンテナ内にはオレンジ色の小型の乗り物が搭載されていたので、すぐに4号とわかった。うっとりと眺めていたら知らないうちに、二号本体の輸送機に拾われ空中浮揚しているようだった。
僕は、ポケットから五百円札を取り出して、人形のような乗組員に運賃を支払った。
しかし、乗組員だと思っていた人は、交番のお巡りさんだったので「五百円を拾ったので届けました」とお巡りさんの背中越しに言った。後出しジャンケンだということはわかってはいたけど、お巡りさんは何も言わなかったので、五百円札を届けてくれたと理解しているのだと思うことにした。

それからは、サンダーバード二号の機体の中で行き場がなくなり、出口のない迷路に入ってしまったように彷徨い歩いていたら誰かが肩を叩いた。
お母ちゃんが「柏原に着いた」と言って僕の肩を何度も叩いていたようだった。
弟と手をつなぎながら「はよ降り」と言ったので、僕はトッポジージョで「到着」と言ったら、お母ちゃんはまた吹き出した。

駅からは、ひとりでも帰れるので、迷子になる心配はいっさいなかった。
五百円札が今の僕の原動力になっていることは確かなようだ、さっき電車の中でうたた寝したときに夢にも出てきたぐらい五百円札には釘付けだ。
僕のポケットからは、あの仁鶴のように月の石のような光が出ている。
自分でもニンマリしているのがわかったので、眉間にしわを寄せてみたが、真夏のソフトクリームのように、すぐに緩んでしまい、それを繰り返した。
商店街では同級生のレコード屋さんを通り過ぎた。
何か聞かせてくれたようだけど、流れていたかもしれない音楽は風のように吹かれてどこかに飛んで行く。
お母ちゃんと弟から少しずつ離れながら後ろを付いて行った。
今度は同級生の歯医者さんの前を通り過ぎたら、またもや険しくした顔が緩んできた。
ニンマリ顔の頂点に達した時、コント55号の二郎さんの”ヒッヒッヒッヒッ・・・”という笑いが頭を過り幸福の頂点に達してしまった。

深呼吸してから、そっとポケットに手を突っ込んでみたら五百円札は見事に消えてしまっていた。

おわり

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これはニャンコの座布団だった [ペット]

皆さま、いつも大変お世話になっております。
ゆういちです。
今年も残すところわずか短針が一周となりましたが、
ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
少し前から気になっていた"note"というメディアプラットフォームのアカウントをとって、年末から運用を開始しています。このBlogの引っ越しも検討している段階ですがこの先どうなるかはわかりません。
初めてnoteを見に行ったら、こんな世界があったのだと驚いたのが正直なところでした。
興味があったら見に行ってみてください。
それでは、皆さん。
どうぞ、よいお年をお迎えください。

さて本題です。
今年のクリスマスは、うちのニャンコに「nyancoroby」ニャンコロビーという三つの鈴入りボールが入っているオモチャをプレゼントしました。
段ボール製で中央の円の部分は爪とぎが付いています。
DSC_0261.jpg

Red Green Blueのボール。
DSC_0262.jpg

いつものことながら贈呈式では無関心。
しかし、次の日の早朝、ガラガラ、チャリチャリ、真っ暗なところで遊んでる。
飼い主に早く起きろと言っていたのかもしれません。

そのうち、[わーい(嬉しい顔)]ニャンコの座布団になりました。
DSC_0260.jpg


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畳をダイケンの和紙畳へ替えてみた [生活]

2011年7月18日に畳の表替えをしてから、9年と4ヶ月が経過したので、そろそろ畳替えかなと家族で話し合いが始まった。
その話し合いをしている畳は我が家の唯一の和室6畳。
DSC_0215.jpg
前回はとにかく新しくしたいとばかり、価格を優先させ表替え45,360円で済ませた。
いつの頃からか、ささくれが酷く、畳の上で洗濯物を畳むと、そのささくれが引っ付いてこりゃまたひどい。“むしろ”状態と化していた。
DSC_0166.jpg
この犯人はニャンコだろうな・・・
DSC_0165.jpg
寄ってみると、傷みがよくわかる。
DSC_0167.jpg
それが引き金となり、新しくしようということになったのだ。
ホームセンターに行ったついでに畳コーナーを見ていると、ダイケンというメーカーの和紙製の畳に興味が湧いた。和紙なのか、初耳だった。
それも、「縁」がない半畳タイプ。
6畳だと12枚ということ。
我が家はニャンコが走り回るということもあり、比較的丈夫なダイケンの健やかくんシリーズ、和紙製にひかれたわけだ。
そのホームセンターで見積もりをお願いした。
後日、畳の担当から電話をくれると言い3日後にようやく電話が来たが、見積もりの為の訪問をどうしても平日にしたいように誘導する。土日にしてほしいとお願いしたところ、困ったなぁというリアクションでまた電話するとのことだったが、尻切れトンボになってしまった。
その後、いきなり見積もり書といっしょに、土日は営業していないとの文面が届いた。
土日は不可ということ最初に言ってほしかった。
仕事が欲しいという気持ちが感じられなかったのでホームセンターの畳屋さんには興味が無くなってしまった。
基本は、お互いWin-Winでないと。

調べているうちに、近所で評判のよい畳屋さんを見つけた。
電話したら、さっそく次の土曜日に来てくれるということになり、4種類の見積もりをお願いしたところ、夕方にはポストインしてくれていた。
大本命、ダイケンの縁なし12畳が高額だったときの保険のために他に3種類をお願いしていたわけだ。

見積もり入手すると、大本命であるダイケンの縁なし半畳12枚の見積もり額が、何と予算内に入っていたので、すぐにメールでGOの連絡をしておいた。
先にもらったホームセンターの見積もりより約52,000円も安かったので、土日問題によって命拾いをした。
翌日の朝電話があり、すぐにでも寸法取りができるとのことだったのでお願いしたところ、
その日のうちに丁寧に寸法を測っていった。
DSC_0191.jpg
寸法取り時に畳の裏を見たら”ダイケン畳”と表示があった・・・
畳の裏を見ることもなかったので知らなかった。
DSC_0192.jpg
あとは、新しい畳が出来上がり納品を待つだけだ。

GOしてから19日後、土日に納品できると連絡があった。

その土日に納品があった。
これが「縁」がない、ダイケンの 「健やかくん」清流 、02黄金色
和紙製
DSC_0217.jpg
目が細かい、期待どおりで良い。
DSC_0219.jpg
DSC_0220.jpg

新しい畳を入れたらイ草の臭いがするものだが、イ草ではないのでその臭いはないが承知済み。
和紙の独特な臭いを心配したが、全く気にならないので安心した。
新しい畳で新年を迎えることができることになったので、今年の残務がひとつ減って、
めでたし、めでたし。

※数か月使ってみたら、ここに和紙製畳の報告を追記したいと思う。






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テプラの中のテープカス [DIY電気]

仕事で、ご家庭で、大活躍のKING JIMのラベルライター。
SR530とうい機種、電源ボタンの接触が悪いため、ダメ元で裏のネジを外して分解してみることにした。

少しだけ苦戦して上カバーを外し、上下を接続しているフラットケーブル2本と、1本の電源のようなコネクターを外した。
完全に上下が分かれて作業しやすくなった。

改めて、まじまじと見てみるとカッター部にテープの残骸がすごいことに。
吹き溜まりの大量の落ち葉のように。

DSC_0205.jpg

逆さまにして叩いたら、出てくる、出てくる。
テープガースー。
間違えました、テープカス。

DSC_0204.jpg

ピンセットを使って、丹念に取れるだけ取ったら、テープカスがこんなになった。
電源ボタンの接触の改善のため分解したことも忘れて、テープカス取りに集中した。

DSC_0206.jpg

テープカス掃除は、完全ではないが終了。
電源ボタンの接触は、ここしかないだろうと推測し、
キーボード部を分解して、ラーメンの器の縁に描かれている模様のような部分をアルコールで拭いた。

DSC_0207.jpg

よくもまあ、テープガースーでギアに支障が出ていなかったもんだと感心した。
最後にまた、間違ったけど、ま、いいや。
めでたし、めでたし。


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タグ:分解 テプラ
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国道2号線を東へ走れ [手記]

1970年代、ゆういちの少年期シリーズ、第11弾

はじめに
1971年1月8日、大阪から鹿児島に家族でマイカー帰省し、楽しいお正月を終えてUターン中、
山口県小郡での出来事だった。
当時は高速道路もなく、ひたすら国道を走り続ける我慢比べのような旅。
舗装道路は三分咲きの時代だったか?

はじまり、はじまり

 よく舞い上がる真っ白な凧を器用に作ってくれた腰の曲がったおじいちゃん。
お餅を火鉢で炙って食べさせてくれる優しいおばあちゃんと思っていたら、プロレス中継が始まると馬場が投げられる度に、我にその衝撃が伝わってくるかのように体が反応し、猪木にタッチすると三毛も逃げ出すほどの声援を送る激しいおばあちゃん。
鹿児島のお正月は、お年玉もたくさんもらって大金持ちになり、僕の夢の中では鹿児島で撮影された楽しかった思い出の映像が再生されていた。
フィルムの回る音が心地よい、「カタカタカタカタ・・・・・・」
突然場面が切り替わり、昼間だというのに空は真っ黒になり、花崗岩の奇岩で埋め尽くされた冬の冷たい海岸になっていた。ドドーンと波しぶきが高く上がったのと同時に僕は目を覚ました。

mochi_usagi.png

お父ちゃんの小さい自動車に家族全員で乗り、鹿児島から大阪へ移動中だったことを思い出した。もし、車酔いコンテストがあるならば、日本一になる自信がある僕は車の中だということでまた嫌な気分になった。
車に少し乗るだけで、胃が踊り“ウェッ”っときて夜店で持ち帰る金魚袋ぐらいの重さのビニール袋を口にあてて、中の何かに語りかけているありさまだ。
そういうことを考えるから、また“ウェッ”とくるのだけど、車はエンジンがかかりっ放しだがどこかに停まっているので、金魚袋などいらないと思う。
少し寒い……
横の弟は毛布に潜ってぐっすり眠っている。
今や子ども向けテレビ番組で大人気のケロヨンやロバくんの夢でも見ているのだろうと思いながら背中に手をあてて暖かくしてあげた。
横になっているので真っ暗な空しか見えない。
ただ、窓ガラスにかき氷のようなものが貼り付いては流れ、付いては流れを繰り返しているので、冷たい雨か雪が降っていることだけはわかった。
体を起こして窓から外を見ると、な、な、何と銀世界が広がっている。
暗い雪の中に僕らの自動車がポツリと一台だけ。
どこまでも雪、雪、雪の、雪国。
こんな雪を初め見た。
反対側の窓を見たら、ここよりもずいぶん高い土手の上が車のヘッドライトやテールライトで眩しく、たくさんの乗用車やトラックがノロノロと走っている。
僕は、土手の上の車と雪の中の、この車の共通点が見つからず、理解に苦しんだ。
寝起きだから頭が働かないのかもしれないけど、おかしい、実におかしい。
ただ、雪山かどこかでこの車が遭難していることは確かのようだった。
もう一度、土手の上をよく見ると、車の人達がみんな僕らを見ながら走っていることに気がついた。

はっ!口がぽかんと開いて、目がだんだん大きく開いてきた。
あの土手からこの車は滑り落ちたのだ。
何か凄いことがあると「パンパカパーン、パンパンパ、パンパカパーン、今週のハイライト」って叫ぶはずの僕でも、ショックでそのセリフを発する回路が起動しなかった。
お父ちゃんと、お母ちゃんは、僕たちに説明することもできないくらい緊迫した状態で、わけのわからない話をしている。
“電話”、“警察”、“追っかける”、“ナンバー”という断片的な言葉だけが耳に入ってくる。

お父ちゃんは、次にどういう行動をすべきか、頭の中の本のページを必死になってめくっているようだけど、指が乾燥しすぎてページがめくることが出来なかったり、焦ってしまって沢山のページをめくってしまい、答えがまるっきり見つからないみたいだ。
それとは対照的にお母ちゃんは、突然車から降りて、軽装のまま雪国の山を登るように土手を上がり、すぐに戻ると紙と鉛筆を震える手に持って再び土手を上がって行った。
やはり雪山で遭難しているのではないかと自分自身の脳みそが教えてくれた瞬間、お父ちゃんは、運転席から振り向いて状況を話してくれた。

大型トラックから追突されて、ゆっくりとあの土手から滑り落ちたのだと。
追突した大型トラックはそのまま、渋滞の流れにのり、ゆっくり逃げていったと教えてくれた。
僕が先に考えていたことは半分ぐらい当たっていた。
幸い渋滞中の追突なので衝撃はほとんど無かったが、車は道路から外れてしまい土手から滑り落ちたのだと、お父ちゃんはつけ加えた。
さらに、ここは山口県小郡で田んぼの中だとつけ加えた。

この自動車はホンダのN360という軽自動車。
後ろの座席には六歳の弟と僕。
その後ろ座席の足元にはミカン箱をうまく変形させたものが二つ押し込まれ、僕らふたりだけの座敷部屋を作ってくれているので、あぐらをかくか横になっての乗車だ。

お父ちゃんは、ドアを開けて外に出るとゆっくりと、車のうしろに回ってからまた戻ってきた。お父ちゃんは外から、「ウッガレチョッタ」と言った。
鹿児島弁で壊れてたと言ってる。僕は何が壊れていようが、今の雪山の遭難を解決することには関係がないので、何が壊れてたのかは、興味もなく聞くこともしなかった。
運転席に戻ったお父ちゃんは、意味もなくカーラジオのスイッチを押して、ひたすら選曲を始めた。そこそこ、きれいに聞こえる放送を捉えた瞬間、お父ちゃんは「ヘヘッ」と言って僕たちに何かの意思表示をした。
普通小学生は聞かない深夜番組、パリパリする雑音の奥から、つぶやくような話が延々語られた。ずいぶん時間が経った頃、やっぱし“帰ってきたヨッパライ”がかかった。
僕は子どもながら、交通事故で死んでしまう歌がかかったことが場違いであることは理解できたが「♪天国よいとこ一度はおいで」のところは弟といっしょに歌いたかった。しかし、弟は眠っている。ヨッパライが運転する車のエンジンの効果音の場面、その直後に「ワァー」と発したヨッパライの声に重ねたけど、お父ちゃんは、頭の中のページとまだ格闘して、飯粒でひっ付いてめくれないページがあるかのようで、笑ってくれなかった。

そうこうしていると、目を擦りながら、弟がケロヨンとロバくんの夢の世界から目覚めたようだ。
弟が不機嫌そうなので、面倒くさいけど窓の外の渋滞中の車を見ながらケロヨンのモノマネで「バハハーイ!」と声を出したけど無視された。
さらに「ケロヨンとトッポジージョは声が似てるなあ」と弟に問うたけれど、弟は眉間にしわを寄せるように不機嫌な顔をした。しょうがない、とどめに「あの銭湯の風呂桶にはなぁ、ケロヨンって書いてあるでぇ」と言ったら怒ってしまった。

お母ちゃんが土手を登ってから三十分ぐらいで車に戻った。
お母ちゃんは、これより、めでたく我が家の”司令塔”に昇格した瞬間だった。
司令塔が言うには、土手の上で渋滞中の車を追いかけて大型トラックを特定しナンバーをメモするだけが精いっぱいでトラックは行ってしまった。次に、偶然にも深夜三時だというのに電気が灯る会社を発見し、事務所の戸を叩き電話を借り警察に応援を求めたそうだ。
今は、待つしかないと司令塔は言った。

寒い・・・・・・
雪山での遭難だ。
山口が大雪であることで、改めて脳みそが混乱し続けた。
学校の先生からは、沖縄や鹿児島は温かく、北へ行くほど寒くなると教わった。何かの教科書にのっていた雪国の写真といっしょだ。
ここ山口は住んでいる大阪から鹿児島の方向なのになぜなのだろうか・・・
車のエンジンの振動と、臭い暖房のおかげで車酔いコンテストが始まろうとしたので、近くにあった金魚袋を引き寄せたら口の中が酸っぱくなった。車は停まっているので、その時が来たならば外に出て雪の上に思いっきりぶち撒けると思ったら、すごく楽になってケロヨンの真似ができるまで急激に自然回復した。
相当な時間といっしょに、終わりのない渋滞の車も流れた。
こんな深夜だというのに、土手の上のノロノロ運転はまだ続いている。

空腹を感じ始めた頃、遠くから“ウーウーウー”とサイレンが聞こえた。
司令塔が前を向いたまま肩の上でVサインを見せたので、あのサイレンは銀行強盗の犯人を追いかけているのではない、火事でもない、ここに助けが来たのだとすぐにわかった。
今まで、Vサインとサイレンがこんなに嬉しいものだとは知らなかった。
司令塔は目頭を押さえながらハンカチを取り出した。
悲しみじゃなく、感動の涙だとわかったので、トッポジージョの声で「キタキタキタデー」と呟いてあげた。
お父ちゃんは、司令塔が実行した手順と同じページを頭の中で見つけたようだったけど、遅すぎたので、ただの運転手に降格してしまった。
そして運転手は、東海林太郎の何かを口笛で吹き始めたので、司令塔に従いますと意思表示をしたようだった。

サイレンの音が聞こえてからすぐに土手の上に赤い回転灯が鮮やかなパトカーが現れ、気がついた時には、僕は警察官の大きな背中にしがみついていた。
土手の上のパトカーまで大きな背中が運んでくれたので何も心配することはなかった。
大きな背中が助けてくれたので空腹より安心の方がまさったのだろうか、僕はパトカーの中で深い夢の中へ吸い込まれていった・・・・・

・・・・・・

次の朝、運転手が僕の足元のミカン箱を利用して、「ウッガレチョッタ」と言っていた、うしろのトランクの補修に使うと言った。
運転手が、警察署でカッターナイフや大きなテープを借りて、うしろのトランクが半分無くなっている部分をミカン箱で補修した。
運転手はいつものように「ヘッ、ヘッヘーーー」と軽やかな笑いで、照れを隠しているのか、うまくできたと言っているのかわからないけど周りに何らかの意思表示をした。
鹿児島のおじいちゃん家で、運転手がニワトリをつぶそうとしたあの時、絞めたはずのニワトリが手元で生き返ったのに驚いた時の「ヘッ、ヘッヘーーー」という照れを隠す笑いと同じだった。

運転手が「ホイジャ、大阪に向けて出発や」と母国語の鹿児島弁の訛りで、大阪弁を少し織り交ぜて言ったのを合図に、皆で自動車に乗り込んだ。
司令塔は言った、車のナンバーの”ひらがなの一文字”を控えてなかったため、トラックの追跡調査は不可能という報告を聞かしてくれた。あの時は協力的な警察がすぐに検問を開始したが、大型トラックは脇道へ逃げたのだろうということで、残念ながら検問を終えたそうだ。
あれ?僕の足元のミカン箱があるやん、何でやろ?
司令塔が運転手に鹿児島から持って来たミカン箱を切り取って修理することを指示したみたいだ。司令塔は、運転手の笑いの意味を知っているらしく、うしろを気にしながら楽しそうだった。

HONDA_N360.png

そして、笑顔になった家族を乗せて車はゆっくりと発車した。
単車のエンジンのような独特な音をばらまきながら。
あの背中の大きい警察官が手を振ってくれたので、「バハハーイ!」とケロヨンのモノマネをしたら弟がケラケラと笑った。
背中の大きい警察官に聞こえてしまったと勘違いして顔が赤くほてってしまった。
念のためにすぐに金魚袋を手元にたぐり寄せ、大阪まで頑張ると心に誓ったのだが、
口の中がすぐに酸っぱくなった。
車に揺られた弟は、すぐにケロヨンとロバくんの夢の世界へ。
車酔いだけは弟に勝てへんわあ。
お兄ちゃんの負けや、弟よ!

ホンダN360は、うしろの痛々しい部分を“たんかん”という赤い字に替えられ、
「もう、雪の田んぼに落とさんといて!」と
  後続車に訴えながら国道2号線を東に向かった。

おわり


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中国からのペット用呼び鈴 [ペット]

うちのニャンコから、どうしても買ってくれとおねだりされているわけではないが、飼い主都合でペット用の呼び鈴を買ってあげた。

商品名は「MyMei ペット 呼び鈴 コールベル 猫呼び鈴 犬呼び鈴 トレーニングベル 食事ベル カウンターベル 訓練ベル おもちゃ (ホワイト)」
Amazonで注文したが届かないため、注文履歴を確認したところ“お届け日”が一ヶ月後になっていることに気がついた。当月だとばかり思っていたのだが、斜め読みをしたばかりに気がつかなかった。

一ヶ月経たず、月が替わったら日本郵便の配達員が玄関まで持ってきてくれたのだが、手に受け取った瞬間、「チン」と小さな音がした。
脆弱な梱包であることは瞬時にわかった。
ようやく、中国の帆船で届いたってことか、どれどれ。
最近話題の「謎の種」ではなさそうで、少しだけ残念だった。
DSC_0012.jpg

薄っぺらのエアキャップの袋に入ってる。
これは、問題じゃないか?
注文者に到着したら、どうなっているか予想がつくだろう。
DSC_0013.jpg

開けてみたら、予想どおり壊れている。
上部のボタンが斜めになっている。
DSC_0015.jpg

真上から見ると、土台とベルの中心が合っていない。
DSC_0016.jpg

”ダイソーの呼び鈴”が上手になったニャンコに鳴らしてくれるように頼んでみたがうまく鳴らない。
金属のお腕部を回転させると、鳴る位置もありそうだが使い物にならなかった。
価格は500円以内であったので返品もしなかった。

それに懲りず、Amazonで検索して、「MJY屋 コールベル 呼び鈴 カウンターベル 受付 店舗 (ライトピンク)」というものにターゲットを絞った。
これも格安であり、“お届け日”が来月になっていることを確認した。
“お届け日”から判断して、これも中国からの発送ということはわかった。
商品の詳細写真をチェックしていたら、なんと梱包が箱入りになっているではないか。

半信半疑だったが注文してみた。
一ヶ月は経たずして商品が届いたが、同じく脆弱な梱包スタイルだ。
左:今回ゲットしたもの、右:前回ゲットしたもの
DSC_0028.jpg

開けてみたら、深いキズがあるし、うまく鳴らない。
DSC_0029.jpg

これも価格は500円以内であったので返品もしなかった。

10個注文すれは、あわよくば、数個だけ良品が手にはいるかもしれないが、ペット用の呼び鈴には興味がなくなった。
ごめんなニャンコ!

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銀杏が教えてくれたこと [手記]

1970年代、ゆういちの少年期シリーズ、第10弾

はじめに
毎年この季節になると、夜の落ち葉拾いを思い出します。


お母ちゃんが、明日も学校だから早く寝なさいと言った瞬間、最近地震がなかった僕の中に激震が走り、歌舞伎役者のように寄り目になって強面になってしまった。
今日、小学校の先生が明日の理科の授業に、落ち葉を持ってくるように僕らに告げたのをすっかり忘れていたのだ。
これから布団に飛び込んで弟をいじってから寝ようと思っていたのに、何故ここで記憶を呼び出してしまったのだろう?
いっそのこと、明日学校に着いてから思い出した方が楽だったかもしれない。
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いやそんなこと考えている場合じゃない、怖い先生に怒られることを思うと、
こうしてはいられない。
「あっ、あの、お母ちゃん、学校に落ち葉持っていかなあかんねん」
お母ちゃんは、じゃあ、落ち葉拾いに行こうと言って、
パジャマ姿の僕に着替えなさいと言いつけた。
僕は朝の着替えより早く、いや、消防士よりも早く、すぐにでも出動できるように準備を整え、胸にウルトラマン科学特捜隊のバッジを付けた。

もうこの時間であれば外はひんやりしている。
お母ちゃんは柿色のカーディガンを羽織って、心配そうな弟に手を振ってから僕といっしょにボロアパートから飛び出した。
東の方向には山があるので、自然に東の方向にふたりで向かった。
大きな市立病院の裏に大きな銀杏の木があることを、僕も知っているけど、お母ちゃんも知っていたようだ。
お母ちゃんは幼いころ、終戦の貧しい時代を生き抜いてきているので、どこかへ行く度に、銀杏の実や、ツクシ、ゼンマイ、ドクダミ、フキ、ヨモギなどを気にかけるのだ。だから銀杏の実が落ちる場所を記した地図が頭の中に入っているのだと思った。
そうか、銀杏の実だったのか。
お母ちゃんは怒りもせずに僕といっしょに来てくれた理由がわかった。
隣の県までお父ちゃんと山芋堀に行くぐらい、タダで手に入る食糧に興味があるのだ。
へッへへ、お見通しやでぇ。

市立病院の裏までは歩いて五分ほどだ。
最近、シキシマパンのお店が開店した目と鼻の先、昼間の様子とは打って変わり、パン屋さんは明日のために英気を養っているように眠っている。そうそう、このパン屋さんは、ぼくら庶民が見たこともない“電子レンジ”があると近所で話題になったのだった。
電子レンジで菓子パンを温めてもらったことがあり、温める時間がほんの一瞬であったことに衝撃を受けたことを思い出した。
パンを一瞬で温めた衝撃だけではなかった。
ほんのり中まで温かい菓子パンが、うっとりして幸せを感じるほど美味しいことにも衝撃を受けたのだった。
落ち葉拾いに来たのに、また違うことを考えてしまった。
僕はいつもこうだから、先生に言われたことを半分だけ聞いて半分聞くふりをして、落ち葉のことも忘れてしまったのだろう。

市立病院の裏には、頭に描いていたとおりの銀杏の木が僕らを見下ろし、
落ち葉が一面に広がっていた。
街灯だけなので、黄色いはずの落ち葉には色がなく、肌寒いのに加えて病院の暗い建物の影が迫ってくるようで僕は震えた。

先日、友達と怖いもの見たさで、この病院の正門で救急車を待っていたことを思い出した。
「ウー・ウー・ウー」という音で僕らには緊張が走り、病院の正門から救急車が通過していくのを見守り、患者さんを運び出す現場を遠くから見ていたのだ。
多くの血に染まった白い何かが目に焼き付いた。
切り裂かれるような衝撃が走り一目散に病院から逃げ去った光景がよみがえった。
そんな遊びをしていたことは、間違ってもお母ちゃんには口にしない。
また、ブルっと寒気がはしり、急いできれいな銀杏の葉っぱだけを数枚拾った。
満足したので後ろを振り返ったら、お母ちゃんが拾った棒で、臭い銀杏を突っついていたので、お母ちゃんを少しだけ楽しませてあげたのだと思って安心した。

次の日、理科の授業で机の上に、隣の女子にトランプのフルハウスを見せびらかすように銀杏の葉っぱを並べた。そのフルハウスはボロアパートの隣の隣に住んでいるお姉ちゃんと遊んだ時に教えてもらったのだ。いっしょに遊んでいると、ゲーム中に歌舞伎のセリフを口走り、皆を笑わすのが趣味のような明るい物知りなお姉ちゃんだ。

この隣の女子といったら僕より多い沢山の種類の落ち葉を並べ、僕に興味を示す風もなく真っすぐ正面を向いて、つんつんつん、している。
僕は、その女子に聞こえないように少しだけ舌打ちして、もう一度自分のフルハウスの手を見ていたら、銀杏の葉っぱが僕に記憶を思い出させるスイッチを入れた。
悪ふざけで、病院の前から人の不幸を見ている醜い自分の姿だった。

銀杏の葉っぱは、うちの家族と同じ数だった。
それぞれの銀杏の葉っぱには、お父ちゃん、お母ちゃん、弟、の顔が浮かび、悲しい顔をしていた。すると、鼻をつまんでプールに潜ったように、僕の周りの音が何もかも聞こえなくなった。僕はもう悪い遊びはしませんと心に誓うと、お父ちゃん、お母ちゃん、弟、僕、家族がみんな健康であることに気がついた。
嬉しくなって、さらに音の無い自分の世界に入っていった。

心地よい乾いたチョークの音が止まった瞬間、突然先生が僕を指名した。
自分の世界に入っていた僕は、ここは学校であることまで、わからない状態であったので、脳みそがパニックになってしまった。
女の先生から「なにボケーとしてんのん」と言われたのと同時に、どっと同級生の笑いにつつまれ、隣の女子が輪をかけるように奇声を発して笑った。

そしたら、僕はまた歌舞伎役者のように寄り目になり、
口をへの字に半空きにし、
「近頃面目次第もございません」と心の中で発した。

おわり。


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時を超えたペア猫の置物 [小物]

雨がしとしと降る気の晴れない休日の午後、録りだめ(BS11録画)していた1970年製作の古い日本映画を見ることにした。
それは、ザ・ドリフターズ主演のシリーズ第6作「誰かさんと誰かさんが全員集合!!」
オープニングは茨城県の水戸市内をカメラがパーン、あんこう鍋の山翠、偕楽園、旧茨木県庁、弘道館、千波湖、山口楼などなど。ストリートビューでもう少し調べたら、旧三笠松竹前(現:大工町交番)付近のシーンあり。
ロケ地が水戸ということで、当時の水戸を知っている方は興味深く映画を楽しめるのでは。
また、若かりし日の、志村けんさんがヤクザのような下っ端役のひとりとして登場しているのも見所だ。
ストーリーはさておいといて。

碇田長吉(いかりや長介)と岩城令子(岩下志麻)ツーショットの場面、どこにでもあるような茶の間のセットに猫の置物が2つ置かれていた。
DSC_0130.jpg
あれっ、うちと同じ陶器製のペア猫の置物じゃないかと気がついた。
うちのペア猫と大きさが異なるが、フォルム、色、一致している。
ペアの置物であるが、その二匹が左右に離れて飾られている。

左の♂雄猫
DSC_0128.jpg

右の♀雌猫
DSC_0129.jpg
間違いない。
うちのペア猫の置物は家族のあるイベントがきっかけで、贈答品専門店で約20年前に購入したものだ。親戚や両親に配って自宅の玄関に飾ってあるものがこれ。
DSC_0127.jpg
この映画1970年製作なので、ペア猫の置物は半世紀前の物であるのか?
骨董品か?まさか、そんな。
贈答品専門店の倉庫にあったものを、蜘蛛の巣とホコリを払いながら店主が出してきたレア商品だったということか?
ググってみよう。「ペア猫 置物」と入力してエンター・・・
あれれ、通販のサイトばかりヒットし、普通に販売しているため骨董品でもなんでもないということがすぐにわかった。
二匹の大小の猫が寄り添うフォルムは共通しているが、様々な模様や色、大きさは大中小がありそう。
しかし、通販サイトの検索結果に埋もれているのか知りたい情報は得られなかった。
検索オプションで“通販”や“ショッピング”の除外を入れて工夫したがこれ以上の情報入手は限界を感じた。

結論として、このペア猫の置物は、
いつの時代にも愛されている「超ロングラン商品」ということ。
会社情報を辿っていくと、製造する会社は「愛龍社」(あいりゅうしゃ)
瀬戸物の街として有名な愛知県瀬戸市に1950年に設立された陶磁器メーカーということまではわかった。
DSC_0131.jpg
一週間テレビやラジオ新聞から目を離せば、世の中の流れがわからなくなるように目まぐるしい変化をするこの時代、このペア猫だけは時間がゆっ・・・くりと進んでいるようだ。
なんか、すこぶる愛着が湧いてきた。
うちのニャンコ、緊張しすぎ!

※「誰かさんと誰かさんが全員集合!!」はDVD化されていないため、VHSテープをオークション等で購入するしか手はないかもしれない。


愛龍社 ペア猫置物(中)LOVE AR-1259

愛龍社 ペア猫置物(中)LOVE AR-1259

  • 出版社/メーカー: 愛龍社
  • メディア: ホーム&キッチン




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One Fine Day [手記]

1970年代、ゆういちの少年期シリーズ、第9弾。

はじめに
母ちゃんが、お前は東京の会社へ就職するんだからスーツを新調しなきゃねって。
そんな、ある一日を記憶の糸が途中で切れないように思い起こしてみた。
ブルースリー、スワシンジ、わっかるかな?
わっかんねだろうなぁ。


僕は洋食屋さんで「ラーメン」と母ちゃんにつぶやいた。
母ちゃんは、苦笑しながら「おまえは、ラーメンしか知らないの?」と言った。

今日は特別な日。
今年も約束どおり、ほんとうに春がやって来るのか桜の季節が待ち遠しいこの頃。
東京の会社へ就職するためスーツ選びと採寸をする日のことだった。
僕の住む小さな町には新調のスーツを買い求められる店はないので、隣のそのまた隣町まで母ちゃんに連れられてきたのだ。母ちゃんがここに連れて来なければ、僕は学ランのまま上京したかもしれない。ここへ連れて来られて初めて、スーツで上京するものだと知ったことは、間違っても誰にも言わないように秘密にすることにした。

店主の勧めで、斜めの真紅ストライプのネクタイでアイビー仕立て、アイビーに合わせたシャツ、靴下に革靴まで揃えてくれた。こんな田舎町に、こんな紳士服店、こんな目利きのいい店主がいたということが意外で、それもトントン拍子でコーディネートしてくれた。
店主はドリフターズ見習いのスワシンジに似ていた。首に廻してあるメジャーを突然、ヌンチャクのように振り回し、ブルースリーの真似をして奇声を発することを想像したら吹き出しそうになったが、口を結んだまま、ほっぺたに力を入れて笑いのピークを越えることができた。
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この紳士服店だけで、鬼ヶ島へ行くためのイヌ、サル、キジ、が揃ったようなものだ。あとは、旅立ちの日にきび団子を持たせてもらえば完璧だ。
すでにイヌ、サル、キジが揃ったのできび団子は自分で食べるってことか。
僕は桃太郎か、ナハハハと心の中で笑った。
スワさんはイヌ、サル、キジを来週取りに来てくださいと言って軽く会釈をして見送ってくれた。
何故、母ちゃんはこんなお洒落な店を知っていたのだろうと不思議に思ったが、裁縫がプロの腕前なので何かの縁で情報を得たのだろうと勝手に解釈した。

「ラーメン」はスワさんの紳士服店から、二件隣の西洋の雰囲気のする洋食屋さんでの会話だったのだ。
英国風アンティーク家具や雑貨でデザインされた店内は大人の酒場ではないかと驚いた。
店内はシュレルズのWill You Love Me Tomorrowが静かに流れていた。
「うん、ラーメンでいい」
母ちゃんは困ったように、「ラーメンは無いよ」と言った。
家族で外食したことなど記憶にない。
大衆食堂やラーメン屋さんでさえ、皆で食べた記憶がなく、外食という経験が全く無かった。
そんな僕を母ちゃんは、イヌ、サル、キジを注文した後に洋食屋に連れてきた。
東京で一人暮らしをする息子のために外食の経験をさせておかなければならないから、僕と一緒に洋食屋に入ったのだろうと思った。
お客さんが少ない店内で、油でテカテカしたメニューを見た。
しかし、「ラーメン」しか候補が浮かんでこなかった。
安心して注文できるのはラーメンしかなかった。
洋食の定番、ハンバーグは当然知っているけれど、ハンバーグという肉の塊以外にどんな物が出てくるか想像がつかなかった。それにフォークの表裏をひっくり返して、猫の額に米粒を乗せる技を考えるだけでもいやになった。
ラーメンだったら間違いない、そういう発想だったかもしれない。
マスターは、状況を察知してくれたようで、うちで出前が取れると言って、中華食堂からラーメンをふたつ取ってくれた。近くの中華食堂から、割烹着姿のおばちゃんがあっという間に持ってきた。
ラーメンは既にコショウがプランクトンのように浮いていたので、万人受けするコショウを使って、うまく擬装しているのだなと思った。
母ちゃんは苦笑いしながら、恥ずかしそうにラーメンをすすり始めた。
僕は、スーツで上京する自分の姿を頭の中に映写しながら母ちゃんといっしょにラーメンをすすった。プランクトンを吸い込んでむせないように……
たぶん母ちゃんの頭の中にも、スーツ姿の僕を見送る映像が映写されていたのだろう。いつもと会話が少なかったのでそう思った。
東京でラーメンばかり食べてひもじい思いをする我が息子も想像していたのかもしれない。
店内はウキウキしそうなシフォンズのOne Fine Dayに替わっていたが、今の僕の気持ちには重ならなかった。
西洋の雰囲気のする洋食屋ではラーメンを前にしても、結局食欲のスイッチが入らなかった。
胃が小さくなったようですぐに腹が一杯になった。
ふたりとも、ラーメンでむせることなく無事食事を終え、洋食屋をあとにした。スワさんのことを思い出さなかったのがよかったかもしれない。

それから母ちゃんと一時間に一本しか走らない、がらんとしたボロバスに乗った。
西洋の雰囲気の酔いを引きずって、バス酔いだけは避けたいと、肝に念じ海を見ながら一時間ほどで自宅に戻った。

飼っているコザクラインコが「ピピッ」と尖った声で鳴いて、僕に家に帰ってきたのだと教えてくれた。畳の上に大の字になり、届きもしない蛍光灯の紐に手を伸ばしてみた。
今日は紳士服店でスワシンジに出会い、西洋で中華を味わい、そして臭いボロバスに乗って小旅行から帰ってきたので、井戸の中に入ったように落ち着いた。
すぐに母ちゃんが熱い緑茶を淹れてくれたので、口を尖らせ一口すすった。
……
すると、あのイヌ、サル、キジを手に入れたら大人になれるのだと頭をよぎった。
その瞬間、血が沸騰し、ブルースリーの真似をして奇声をあげた。
「アチャ、アチャ、アチャ、アチャー、アォ―――」
奥の部屋から弟が飛び出てきて、眉をひそめ、気でも狂ったの?というような仕草をして笑っている。

僕は、あのOne Fine Dayが聞きたくなり、
小さなナショナルのラジカセに“外国”と書かれたカセットテープをカシャリと入れ、覗き込んだ窓から見えるテープの量を見ながら早送りと巻き戻しを繰り返し、再生ボタンを押した。
ミッシェル・ポルナレフの「愛の休日」の次に聴こえてきたカーペンターズのOne Fine Dayのボリュームを上げた。

おわり。


ブルース・リー伝

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  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 単行本




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クローゼットの中で何が起きた? [生活]

今年の酷暑もあっという間に過ぎ去り、台風が運んでくる雨の日になると、長袖シャツでも寒いと感じてしまうこの頃。
明日は寒いらしいから、クローゼットの中から一着出しておこうと前日の夜のことだった。
クローゼットの中のほぼ全ての洋服には、クリーニングから戻ってきた状態で不織布製の洋服カバーで仕舞われている。
いつものようにニャンコが付いてきたので、「いっしょにやるか」と声をかけてから、ひとつひとつファスナーを開けて物色していると・・・
おや、何かが変。
非常に悪いことが起きている。
かなりヤバイ!と感じる。

何がヤバイかと言うと、手がベトベトになる。
ベトベトの程度を言い表してみれば、台所の油汚れより少しマシぐらいか。
誰かがクローゼットの中で焼き肉でもやったか?
一体、何、誰の仕業だ? ありえない。
衣類を扱っているのに、手がベトベトになることはあってはならない。
洗面所で手を洗ったところ、不幸中の幸いとでも言っておこうか、油性ではなようで、水洗いだけで手のベトベトは流れ落ちてくれたので、焼き肉ではなかったことだけはわかった。

手が綺麗になったので、もう一度、クローゼットの中を物色してみよう。
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不織布製の洋服カバーを触ると、手がベトベトになってしまうことがわかった。
それも、どれもこれも全てのものが、クローゼットに収納している洋服以外のものまで。

少し首を傾げて考えてみたら、除湿剤ではないかと気づいた。
当たり!
何種類かの除湿剤が入っているが、その原因となるものはカインズホームで買った除湿剤(パワードライ、洋服ダンス用、吊るして使うフック付き)であることがわかった。
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除湿剤から気化してクローゼットの中の物に付着したということだ。

除湿剤は私が買ってきてクローゼットの中に吊るしたのではないので、うちの奥さんに確認したところ、買ってきて吊るしたのは一年以内だと言っている。
それを信じるとすれば、一年以内で気化が始まってクローゼットの中がベトベトになるということはかなり問題だと思う。今年の猛暑がいけなかったのか?
洋服は、洋服カバーで保護されていたのが幸いだったが、残念ながら完璧ではないと思う。
安物買いの銭失いとは正にこのことか。
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除湿剤には、「薬剤全体がゼリー状になりましたらお取替えください」と書かれているが、使用に関してはかなりリスクが高い商品だったのだ。
もし、洋服カバーを被せていなかったらと思うとぞっとする。
この商品をクローゼットや洋服ダンスに長期間入れっぱなしの方は緊急点検したほうがいいんだなあ。
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おわり


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