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涙の肉飯 [手記]

1970年代、ゆういちの少年期シリーズ、第2弾。

昔を思い出し、何故?あんなことしてしまったのだろうと、後悔することありませんか? 
大阪万博が開催された年、私が小学生だった頃のほろ苦い話です。
私も含めて、同級生4~5人が先生のご自宅に遊びに呼ばれたことがありました。
同級生達は、やんちゃで悪戯好き、理科好きの科学少年、サンダーバードマニアまで、当時はそんなヤツらと臨機応変に遊んでいました。
遠い先生のご自宅まで、みんなで自転車を連ねて走ります。
私の補助輪なし自転車運転技能は奥手で、そのデビュー間もない頃だったのではないかと思います。自転車デビューした途端に行動範囲が広がり、車の免許でも取得したかのように町のどこにでも行けるようになった喜びがありました。自転車の無駄なパーツを外すと車体が軽くなり、楽に自転車に乗れることも覚えました。
チェーンカバーの無い軽い車体の自転車で、同級生達と先生の家まで競い合うように走ります。

遊びに呼んでくれた先生は若い女性教師。
当時のアルバムを開くと色白で面長、清楚で綺麗な先生だったと再認識します。
先生は新婚さんで、ご自宅を訪問した時には先生だけがいらっしゃいました。どう考えても担任の先生じゃなかったと思うのですが、その先生が呼んでくださった生徒の中に何故か私が入っていました。
先生は、学校とは違う洋服なので少しだけ先生の家庭生活の様子が頭の中をよぎります。学校で見る先生からは緊張感を感じますが、ご自宅ではこうも違うものかと思ったものです。
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ご自宅に上げていただいたら、すでにお昼の準備が整っていました。
先生は、にっこりと、”にくめし”という丼ぶりものだと言いました。
何の肉かはわかりませんが、ご飯の上に肉ということはわかります。
私の家では肉飯なんか聞いたことも食べさせてもらったこともなく、それも丼ぶり鉢でいただくご飯に強く興味を惹かれました。
”にくめし”という言葉の響き、その匂いと、丼ぶり鉢という器に胃袋が踊り、空腹の大波が押し寄せてきました。口の中は大量の唾液で浸水しています。
同じテーブルに座っている同級生皆同じだったはず。
その肉飯は、今でいう牛丼だったのではないかと思います。
いただきますの挨拶で肉飯を食べ始めました。
私は、一口食べた瞬間、初めて食べた肉飯の匂いと味に驚きました。
そして、空腹の大波は、いつの間にか食欲の連続した大波に変わっています。
「おいしい、おいしい、おいしい」口に出しては言いません、心の声で何度も。食べることに集中するため壁の絵画をじっと見つめながら咀嚼します。
何回「おいしい」を言っても表現できない美味しさ、ほどよい甘さが記憶の引き出しにいつまでも残っています。

しかし、小学生の男子って罪なヤツらです。
その中のひとりが、美味しくなさそうな態度をとってお箸をパタンと音がはっきりわかるように置き、そのお箸を置く音で黒いモヤがかかったように雰囲気が悪くなりました。もうひとりも、俺も食べないと言ってお箸を置き、それに続いて私も含めて皆がお箸を置いていましました。肉飯の半分も食べていません。どうして、ひとりにつられて、気持ちと逆の態度にでるのでしょうか。悪気はないのですが、その行動をすることによって相手の感情をどう傷つけてしまうかが、かなり鈍感なのです。

先生が「おいしくなかったかな――?」と言ったところまで記憶にあります。
その先の記憶は……プツリと糸が切れるように、思い出せません。

大人になってから、時々この事を思い出します。
先生にたいへん申訳ない振る舞いをしたことが今になっても悔やまれるからです。あの年頃の子どもを、先生が理解してくれていれば、少しは救われますが、先生に謝りたいのです。帰ってきた旦那さんに、先生は何て言ったのだろう? まさか、泣いたりしたんじゃないだろうか? 冷静になって考えると、あの行為は先生に対しての“いじめ”だったのではないかと思うこともあります。
「おいしくなかったかな――?」の一言でしたが、その言葉の裏には重くて複雑な思いがあったのだと思うと、今になっても正直な気持ちを伝えなければならないと思うのですが、そんなチャンスは訪れることはありません。
この肉飯の出来事が教訓となっていれば、相手の立場になって物事を考えることや、思いやりをの気持ちを私に与えてくれたのでしょう。そして、その後の自分の人生にプラスに働いているのであれば先生も許してくれるのではないかと思うことにしています。

「先生! あの肉飯は、おかわりをしたいほど、おいしかったんです」

先生がおもてなししてくれた肉飯、私の記憶の宝物です。


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